言の葉日記

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英語はヨーロッパ語の異端児

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英語はヨーロッパのほとんどの言語と親戚です。親戚というのは先祖を遡ると共通の言語にたどり着くという意味です。

最も近い親戚はオランダ語やドイツ語です。西ゲルマン語と呼ばれます。次に近いのは北欧のデンマーク語、スウェーデン語、ノルウェー語などの北ゲルマン語です。つまり英語はゲルマン民族の言葉が最も身近な仲間ということになります。

ラテン語から分かれたフランス語、イタリア語、スペイン語などは少し遠い親戚になります。これらはラテン民族の言葉です。さらに、地理的にかなり離れた場所にあるイランのペルシャ語やインドのヒンディー語は遠い親戚です。

このようにインドからヨーロッパまで広がっている親戚の言語のグループをインド・ヨーロッパ語族と言います。

英語は世界で初めて産業革命を成し遂げた大英帝国の言葉で、現在ではアメリカをはじめとするイギリスの旧植民地の公用語になっています。国境をまたぐビジネスや国際会議などでは共通語として使われることが多く、実質的な世界共通語になりつつあります。

このようにヨーロッパを代表する言葉である英語ですが、実はその特徴は最もヨーロッパ語的ではないのです。

ヨーロッパの言語の特徴を一言で表すと「屈折語」です。これは専門用語なので忘れていただいて構いません。

具体的に説明します。

英語は言葉の順序が決まっています。

主語が最初に来て、次は動詞、最後は目的語のように。

しかし、本来のヨーロッパの言葉では、語順は比較的自由です。

例えば名詞の場合、文中のどこにあっても語尾の形などでその言葉が主語なのか、目的語なのかという文法上での役割が分かります。英語はこの機能を失ってしまいました。

それから動詞はその形を見れば、主語がなくても誰が主語かわかります。また、現在形、過去形、未来形などの時制もわかります。そのため、動詞が文の先頭に来ても、後ろの方に来ても意味がわかります。このような特徴があるため、語順がきっちりきまっていなくても理解できるのです。

ではなぜ英語が親戚たちとは異なる特徴を持つに至ったのか。英語の歴史を簡単に振り返ってみましょう。

5世紀にドイツ北部にいたゲルマン民族のある部族がイギリスに侵入しました。その部族とはアングル人、サクソン人などです。アングロサクソンという言葉の由来にもなっています。彼らの言葉、当時の「英語」はドイツ語の方言と呼んでも差し支えないくらいドイツ語に似たものでした。

その後、イギリスは北欧のゲルマン人であるバイキングに何度も襲撃されました。一時は国土のかなりの部分を占拠されたこともありました。この影響で、英語が変化しました。文法機能を表す単語の語尾がなくなったり、ドイツ語的な言葉が北欧的な言葉に置き換えられたりしました。

1066年にはフランス北西部にいたノルマン人がイギリスを征服しました。ノルマン人はもともと北欧のバイキングでしたが、フランス国王の臣下となりフランスに住み着いているうちに、フランス人化しました。イギリスでは支配者層の言葉が英語からフランス語に置き換えられてしまいました。

時を経て英語は主役の地位を取り戻しますが、その間にフランス語が大量に取り入れられました。それから今に至るまでに文化的な言葉がフランス語、ラテン語ギリシア語から次々と借用されました。別の言語から取り入れた言葉を借用語と言いますが、現在の英語は語彙の半分以上が借用語であると言われています。

対照的に兄弟であるドイツ語は昔ながらのゲルマン語の特徴をよく保っていて、借用語も少なめです。借用する場合も元のまま直接取り入れるだけではなく、ドイツ語風に翻訳して借用することも多いそうです。

このように英語は最も身近な親戚からも大きくかけ離れた別言語になってしまいました。

最後に英語の構成要素を大まかに計算式で表してみます。

西ゲルマン語(北ドイツのドイツ語方言)+ 北ゲルマン語(北欧語) + ラテン系言語(フランス語、ラテン語)= 現代英語